療育

ABA(応用行動分析学)を用いた療育の概要と具体的な効果とは?


障害など“困りごと”を抱えた子どもたちのより良い発達を促し、日常生活や社会生活を円滑に過ごせるようサポートする療育(発達支援)では、ABA(応用行動分析学)を用いた取り組みが重視されています。今回は、ABAを用いた療育の概要や具体的な方法、効果についてご紹介します。

ABA(応用行動分析学)を用いた療育の概要と具体的な効果とは?

ABA療育とは

ABAは英語「Applied Behavior Analysis」の略称で、日本語では「応用行動分析学」と表現されます。行動を分析し、その知見をもとに「社会の中で問題になる行動を解決すること」に焦点を当てた学問です。

ABAは教育現場や福祉施設、スポーツシーンなど幅広い分野で活用されています。その中でも自閉スペクトラム症や発達障害などに関わる問題を改善するために広く用いられる場合が多いです。ABA療育では、子どもたち一人ひとりの行動を理解し、望ましい行動を増やしたり、問題行動を減らしたりするための働きかけを行っています。

※補足:ABAは、一部の人々にとっては効果的な介入方法であり、日常生活の質を向上させることができます。しかし、すべての子どもたちへ同じように有効であるとは限りません。また、ABAの使用に関する倫理的な問題や懸念も存在します。そのため、ABAの有効性や適切性は、個々の状況や目標に基づいて個別に評価する必要があります。

ABA療育のやり方

ABA療育の基本的なステップは以下の通りです。

  • ①行動を分析する
  • ②好ましい行動を増やす
  • ③望まない行動を減らす

ABA療育を始めるためには、まずその子の問題行動を分析する必要があります。その行動が起こる前の状況や環境要因にも目を向け、「なぜ対象行動が起こるのか」原因を探りましょう。

正確なデータを収集することで、目標行動の進捗や問題行動のパターンが把握できます。好ましい行動が現れたときには子どもが喜ぶ働きかけを行い、良い行動を継続する動機を持たせます。反対に、望まない行動が現れたときには「対象行動を起こしてもメリットがない」と子どもに感じさせることがポイントです。

ABA療育の活用法

好ましい行動が現れた際の働きかけは、物質的な報酬(ご褒美などの物)に限定される必要はありません。

例えば褒められることが嬉しい子どもには「すごいね」「よくできたね」と声をかけたり、スキンシップが嬉しい子どもには握手や抱っこをしたりすることも効果的です。

また、療育者が成功体験を増やす環境作りや、望まない行動を起こさせないよう配慮を行っても問題ありません。まずは療育者が導くことで好ましい行動が自発的に増え、その結果自然と望まない行動の減少につながっていくのです。

ABA療育の効果とは

次に、ABA療育で得られる効果について詳しくご紹介します。働きかけの原理や具体的な事例について確認していきましょう。

ABA療育の理論

ABA療育では「強化」と「弱化」のふたつの視点が求められます。

ABAにおける「強化」とは、行動の直後に良いことが発生することでその行動が発生しやすくなる現象のことです。この場面での“良いこと”は「正の強化子(きょうかし)」あるいは「好子(こうし)」と表現されることがあります。

またABAにおける「弱化」とは、行動の直後に悪いことが起こることでその行動が発生しにくくなる現象のことです。「弱化」は「罰」と表現されることもあります。

ただし、ABA療育では支援の中で「弱化」を用いることは基本的にありません。「強化」を働きかけることで望ましくない行動の減少を試みるのです。もし望ましくない行動が発生した場合は、叱るといった精神的な苦痛を伴うものではなく、その子どもが「望んだ結果にならない」状況を作ることがポイントになります。

ABA療育での変化・成功事例

例えば、ボールで遊びたいAさんが、ボールを使用していたBさんから突然ボールを奪ってしまう行動がしばしば見られました。“ボールを奪う(行動)”ことで“自分がボールで遊べる(結果)”と考えているのだと支援者が分析したとします。

この場合、“ボールを奪う”という行動を“好ましい行動”に置き換える必要があり、支援者はAさんがBさんに「貸して」「一緒に遊ぼう」と言える場面を作りました。そしてAさんが「貸して」「一緒に遊ぼう」と好ましい声かけができた直後には、その行動を褒めるという状況を繰り返しました。この強化によって好ましい行動が増え、ボールを奪うという望ましくない行動を減らすことができました。この対応は、支援者が行動を褒め、強化することで、Aさんが望ましくない行動を相対的に減らすことができたというABA療育の成功事例になります。

ABA療育のメリットとデメリット

続いて、ABA療育におけるメリットとデメリットについて解説します。

ABA療育のメリット

ABA療育において、以下のメリットが挙げられます。

  • 問題行動が減る
  • こだわりが減る
  • コミュニケーション能力が高まる

自閉スペクトラム症など発達障害を持つ子どもには強いこだわりが見られることがあります。ABA療育を取り入れることでできることが増え、こだわりが分散される効果が期待できるでしょう。

ABA療育のデメリット

ABA療育において、以下のデメリットが挙げられます。

  • 定型発達児に合わせようと子どもに無理をさせてしまう
  • ABA療育への理解がまだ十分でない

ABA療育の目的が「定型発達児に近づけること」に紐づいてしまうと、対象の子どもに無理をさせてしまい、二次障害を引き起こす恐れがあります。子どもが日常生活を問題なく過ごせることに焦点を置くことが大切です。

ABA療育と発達障害

ABAは、世界中で研究がなされている科学的な支援法です。行動の前後に働きかけることでその行動の増減につながるというABAの原理は、発達障害の子どもたちにとって効果的であると実証されています。

例えば、アメリカなど西洋の先進国では、ABAが発達障害児への標準的な治療法として保健適応になっているほどです。言語能力や社会性の向上、そして小学校通常学級への入学率の上昇など、その高い効果が示されています。

ABA療育と自閉症の関係

ABAは当初、自閉スペクトラム症の幼児に高い効果があるとして、世界的に大きな注目を浴びました。現在では発達障害を抱える子どもだけではなく、大人に対しても生涯的な支援法として幅広く活用されています。

※補足:ABA療育は一部の自閉症の個人にとって有効なアプローチであるとされていますが、それが全ての人にとって適切であるとは限りません。個々のケースに合わせて、療育の方法を検討することが重要です

ABAと行動分析学

ABA(応用行動分析学)と良く似た言葉に「行動分析学」というものがあります。これらの違いや関連性はあるのでしょうか?

ABAと行動分析学の違い

行動分析学は「その行動が個人だけではなく、周りの環境との相互作用によってもたらされる」と考える学問です。ABAはこの行動分析学が発展した考え方であり、「ある行動の前後を分析して、その行動を操作する」ことに着目します。

ABAと行動分析学の関連性

行動分析学を基礎とするABAは、問題行動を回避し望ましい行動を促す考え方として、幅広い分野で活用されています。行動分析学が生まれ、周囲の環境も分析対象になるという認識が広まったからこそ、ABAという働きかけが重要視されていると言えるでしょう。

ABA療育の資格は?

ABAの基礎知識を示す資格として、以下の認定資格があります。

  • RBT®︎

BACB®︎が認定する国際資格で、世界的知名度の高い資格です。ただし、現在は日本居住者は受験できなくなっています。

  • 認定ABAセラピスト

ABAセラピスト研究会が認定する日本国内の資格です。日本語で受験ができ、認定後は資格更新などの手続きは必要ありません。

  • ABAT®︎

QABA®︎が認定する国際資格で、日本語で受験ができます。ただし、資格取得には実技実習が求められ、また2年ごとの資格更新手続きも必要です。

ABA療育に取り組む場合、必ずしもこれらの資格を保有する必要はありません。一方、認定資格を持つスタッフが在籍していれば、正確な知識で行動分析を行う環境を整えることも可能となるでしょう。

ABA療育と保護者への支援

最後に、ABA療育における保護者との関係について考えていきます。

ABA療育と保護者の関わり方

療育機関や団体でABA療育を活用する場合、「ABA療育とは何か」を保護者に理解してもらうことが大切です。保護者向けのセミナーやペアレント・トレーニングを実施すると良いでしょう。保護者と話す場を持つことで、問題行動の分析につながるかもしれません。

ABA療育の環境と保護者の協力

ABA療育の現場だけではなく、ご自宅の環境を整えてもらうことも大きな効果を導きます。例えば、兄弟でお菓子の取り合いが発生しないよう、同じお菓子を複数用意することで問題行動のきっかけをなくすことが可能です。

保護者と十分にコミュニケーションを取りながら、より良いABA療育を実践していきましょう。

まとめ

ABA(応用行動分析学)は日本でも徐々に注目度が高まってきており、療育にも高い効果を示しています。施設や家庭での支援にABA療育を取り入れてみるのはいかがでしょうか。

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