療育

ASD(自閉スペクトラム症)とは?症状や療育のポイントまでわかりやすく解説


自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder=ASD)は、社会的コミュニケーションの障害や固定された興味・反復行動が特徴的な、神経発達症です。  

この記事では、ASDとADHDとの違い、原因、発生率、年齢ごとの特徴、治療法、など、ASDに関するあらゆる側面を掘り下げていきます。

ASD(自閉スペクトラム症)とは?症状や療育のポイントまでわかりやすく解説

ASD(自閉スペクトラム症)の基本情報と定義

自閉スペクトラム症(ASD)は、早期発達期に始まり、生涯にわたって影響を及ぼす神経発達症です。社会的コミュニケーションの障害、反復的かつ限定された行動パターン、そして固定化された興味が特徴的です。ASDはその表現の幅が広く、症状の重さや個々の能力が人によって大きく異なるため、「スペクトラム」という用語はこの多様性を反映しています。  

ASD(自閉スペクトラム症)とADHDとの違い

ASDとADHD(注意欠如・多動性障害)は、症状で重なり合う部分もありますが、根本的に異なる障害であり、それぞれが独自の診断基準と治療アプローチを有しています。

ASDは主に社会的コミュニケーションの障害と特定の反復的行動に関連しています。一方、ADHDは注意の散漫、衝動性、過剰な活動性が特徴です。これら二つの障害の理解と区別は、適切な治療法と支援を提供する上で重要です。

ASD(自閉スペクトラム症)の原因

ASDの原因は完全には理解されていませんが、遺伝的要因と脳の発達における異常が関係していると考えられています。複数の遺伝子が関与することが示唆されており、これらは発達初期の脳の成長に影響を与える可能性があります。環境要因との相互作用も、ASDのリスクを高めるとされています。

ASD(自閉スペクトラム症)の発生率と性別差

ASDは全人口の約1%に影響を及ぼすと推定されています。男性は女性よりもこの障害を発症する可能性が高いとされています。この性差は、遺伝的要因、診断の基準、社会的認識の違いが影響していると考えられています。

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と症状

ASDの症状は個人によって大きく異なりますが、以下にいくつかの大きな特徴とそれに関連する具体的な説明を示します。

1. 社会的コミュニケーションと相互作用の難しさ

  • 体の動き、アイコンタクト、表情の変化など、非言語的な手がかりから他人の感情を読み取ることができずに適切に応答するのが難しい。
  • 他人が興味を持っていない話題について話し続ける」など、会話の順番を読む、相手の興味や感情に応じて話題を調整するなど、対人コミュニケーションの流れをつかむのが難しい。
  • 友人を作ったり、人間関係を維持したりすることが難しい。

2. 繰り返し行動と興味

  • 特定の対象やトピックに対する異常なほどの関心や、それに関連する活動に大量の時間を費やす。
  • 同じ動作や言葉を何度も繰り返す、特定のルーチンなどに強く固執する
  • 日常生活の小さな変化にも強い不安やストレスを感じる。

3. 感覚過敏または感覚探求

  • 明るい光、大きな音、特定の食感や味など、普通ではないほど感覚が敏感である場合がある。
  • 特定の感覚入力を積極的に求める、例えば特定の物を触りたがる、物を口に入れる、回転する物をじっと見つめるなど。

4. 言語発達の遅れまたは異常

  • 言葉を話すのが遅れるか、全く話さない。
  • 反響言語(他人の言葉を繰り返す)、独特の語彙や文法を使用するなど。

これらの症状は、自閉スペクトラム症において一般的に見られる特徴ですが、ASDはスペクトラム障害であるため、これらの特徴は個人によって異なり、程度もさまざまなため、専門家による評価と診断が重要です。

ASD(自閉スペクトラム症)の年代別の特徴

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴は、年齢や成長に伴って変化することがあります。以下は、年齢別の一般的な特徴の概要ですが、ASDは非常に個人差が大きいため、すべての人に当てはまるわけではありません。

乳幼児期(0~3歳)

  • 社会的相互作用の遅れ: 名前を呼ばれても反応しない、目を合わせない、人との情緒的なつながりが乏しいなど。
  • 言語発達の遅れ: 言葉の獲得が遅い、または全く話さない子もいます。
  • 反復行動と興味の偏り: 同じ遊びを繰り返し行う、特定の物への異常な執着など。

幼児期(3~6歳)

  • 社会的コミュニケーションの課題: 年齢相応の遊びが難しい、共感の表現に乏しい、対話が一方的になりがち。
  • 言葉の理解と使用の困難: 文脈を理解せず文字通りの解釈をする、繰り返しや特定のフレーズを好むなど。
  • 興味の範囲が狭い: 特定の分野に深い興味を持ち、他の活動には関心を示さないことがあります。

学童期(6~12歳)

  • 学習の困難: 学校での学習や宿題が挑戦となることがあります。特定の科目に秀でている場合も。
  • 社会的な挑戦: 友達を作ることや維持することが難しい、グループ活動やチームスポーツに参加するのが苦手など。
  • 感覚過敏: 強い光や音、特定の食感や味に敏感であることが多く、これが日常生活に影響を及ぼすことがあります。

青年期(12歳~18歳)

  • 自己認識の発達: 自分が他の人と違うことに気づき始め、孤立や不安を感じることがあります。
  • 社会的スキルの発達: 対人関係の複雑さが増し、友情や恋愛関係の構築が挑戦となることが多いです。
  • 成人期への移行支援: 成人に向けての教育、職業訓練、独立生活スキルの獲得が重要です。

成人期

  • 独立と支援のバランス: 職場や社会生活での適応、独立生活スキルの向上が焦点となりますが、継続的な支援が必要な場合もあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の医学的併存疾患について

ASDは、てんかんや睡眠障害、消化器系の問題など、他の健康問題を併発することがあります。これらの併存疾患は、ASDを持つ個人の生活の質に影響を与え、適切な医療介入と総合的なケアの重要性を高めます。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断と評価

アメリカ精神医学会(APA)が発行する『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM-5)や、世界保健機関(WHO)の『国際疾病分類』(ICD-10)など、国際的に認められた診断基準を用いて、ASDの診断が行われます。

ASDの診断は、単一のテストや観察に基づくものではありません。小児科医、小児精、神科医、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士など、異なる分野の専門家によって総合的な評価を行い、ASDの診断基準に照らして評価します。

ASD(自閉スペクトラム症)の治療と支援

ASDに対する「治療」という一般的な方法は存在しませんが、行動療法、言語療法、職業療法など、個人のニーズに合わせた多様な介入が効果的です。また、社会スキルの向上や適応行動の学習をサポートするプログラムも重要な役割を果たします。

ASD(自閉スペクトラム症)の子どもへの支援、療育のポイント

ASD(自閉症スペクトラム症)を持つ子どもに対して療育を行う際のポイントや心がけについてまとめました。前述のASDの特徴や症状と照らし合わせながら個別のニーズに合わせた支援を行いましょう。

1. 個々の子どものニーズを理解する

  • 個別性を尊重する: ASDの子どもはそれぞれに異なる強み、興味、ニーズを持っています。そのため、子ども一人ひとりの特性や能力に合わせた支援が必要です。
  • 評価と観察: 日常生活の行動観察やフォーマルなアセスメントの実施、分析を通して、子どもの興味や強み、課題を把握します。

2. 安定した環境を提供する

  • 予測可能な環境: ルーティンやスケジュールを明確にし、変更がある場合は事前に準備させることで、子どもが安心して過ごせるようにします。
  • 感覚過敏への配慮: 光、音、触覚など、感覚過敏に対する配慮が必要です。過剰な刺激を避け、落ち着ける環境を整えましょう。

3. コミュニケーションの支援

  • 非言語的コミュニケーションの促進: 非言語的なコミュニケーション手段(手振りやイラストカード、PECSなど)を活用して、意思の疎通を図ります。
  • 言語発達の支援: 興味のある話題や活動を通じて、言葉の理解や使用を促進します。

4. 社会性の発達を促す

  • 社会的スキルの教育: 役割演技→ロールプレイやソーシャルストーリーなどを用いて、適切な社会的行動を教えます。
  • 小さな成功を積み重ねる: 社会性を学ぶ上で、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながります。

5. 家族や周囲のサポート

  • 家族教育: 家族が子どもの特性やニーズを理解し、日常生活での支援方法を学ぶことが大切です。
  • 支援ネットワークの構築: 専門家や地域のサポートグループと連携し、情報交換や相談を行うことが役立ちます。

6. 柔軟性を持つ

  • 柔軟な対応: 子どもの状態や反応は変化するため、柔軟に対応を調整することが重要です。
  • 新しいアプローチへの開放性: 効果が見られない場合は、新しい方法やアプローチに切り替える柔軟性も必要です。

大人のASDと社会参加

ASDを抱える成人の方々は、職場や社会での適応、自立した生活のスキル獲得を目指す支援が必要です。就労支援プログラム、社会スキルトレーニング、自己管理スキルの向上が、社会参加を促進する上で重要な役割を担います。ASDでは個々の特性、強み、課題が大きく異なるため、包括的かつ個別化されたアプローチが必要です。家族、教育者、医療・専門家が連携し、ASDを抱える人々が、一人ひとりが自分の可能性を最大限に発揮できる支援体制の構築が目指されるべきです。

まとめ

ASDの主な特徴と支援策について記述してきました。この記事を通じて、ASDのある人々とその支援者が、より充実した生活を送るための理解とサポートを深めることを願っています。

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